透析施設の現状

世界の中で透析導入後の予後死亡率が最も低いと報告されるなど、わが国の透析医療はとても優れている一方で、2017年には33 万人を超えた透析患者の医療費が、国庫の負担となっていることも事実である。透析医療が高止まりしている要因は、高額な医療設備の導入維持管理や、看護単位が少なくならざる得ないなど、さまざまではあるが、施設のエネルギー消費が異様に高いことも一因となっている。

透析施設の設計における2つのポイント

そこでわれわれは、ますます増え続けるであろう透析医療が持続できるような施設のあり方を考えた。

重要となってくるポイントは「高額な施設のエネルギー消費を抑える」ことと、ベッドに横たわった状態で長時間の透析治療を受ける患者に対し、「快適な治療環境を提供する」ことである。

高額な施設のエネルギー消費を抑える

空調と照明が鍵 アンタッチャブルな医療機器にもメス

建物用途別で比較して病院はもっとも総エネルギー消費量が大きい。
透析施設のBELS 認証を受けた基準値は、それよりもさらに大きく、その基準値と同等のエネルギー消費量である系列病院の透析施設は、年間1000 万円を超えるエネルギー費用が大きな負担となっている。

資料)建築物エネルギー消費量調査報告(第36 報)
(一社)日本エネルギー総合管理技術協会

既存施設の項目別の内訳から、エネルギー消費を抑える鍵は、空調と照明であることが分かっており、重点的に対策を施した。
またなかなか踏み込めなかった医療機器についても話し合いを重ね、エネルギー消費削減に寄与する取り組みを行った。

以下は奈良県にある壬生医院で行ったゼロエネルギービルディング(ZEB)の取り組みである。


これによりこの建物は、透析センターを併設した診療所という極めてエネルギー消費の大きい建物でありながら、プリーツスキンや太陽光に追従する自動回転スクリーンなどの特徴ある外皮を纏うことによって、安定した熱環境をつくりだし、一次エネルギー消費量を52%削減し、BELSによるZEBready の認証を受けている。


その結果、2018 年度実績で1,168MJ/㎡・年で事務所ビルより少ないという成果が得られた。

2018 年1 月に開業してから、2019 年3月時点で外来患者は平均50 人/ 日、透析患者は25 人と、当初見込みを上回るペースで来院者数が増えている。
一方消費エネルギーは、安定的な統計が得られだした2018 年度の実績値で、標準年間エネルギー消費量と比べて空調が85%減、照明が95%減となっており、期待以上の効果が表れた。


空調

①外壁や太陽光追従の自動 回転フィンで熱負荷抑制

太陽光に追従して自動回転する高さ100mm の金属フィンにより外壁に影をつくり、ヒートシンクの役割も担う。

通常の庇だけでは遮るのが難しい太陽高度が低くなった際にも南側一面に広がる縦のルーバーによってカバーすることが可能となった。


太陽の動きに合わせて自動回転するフィンにより太陽からの熱負荷を抑制し、拡散光により明るさは室内へと届けるので照明などから発する余計な熱エネルギーも削減できるため設定温度を緩和でき、安定した空調利用ができる環境をつくりだしている。

また、フィンに持たせたヒートシンクの役割だがヒートシンクの効果は空気に触れる面積が広ければ広いほど放熱効率が向上するため、複数枚の羽根がつく今回の構造では非常に効果を発揮している。


②ろ過水の滝と水盤で予冷

ろ過の余剰水の水温は安定的に20℃前後。ここで予冷/ 予温して外気を取り入れる。
また、フィンからろ過の余剰水が滝のように流れてきたら透析準備開始の合図となる。


③放射冷暖房で省エネ運転

徹底的な熱負荷の抑制により、気流を感じることなく寝間着でも快適に過ごせる放射冷暖房としている。
安定運転で室温以上に涼しく/ 温かく感じるため、省エネルギーに寄与する。

対流式の従来空調は、空調の吹き出し口の真下の温度が低かったり高かったりする上、
足元は冷暖房ともに冷たくなっています。
一方、放射空調では室内全体がムラなく冷えたり暖まっていることで、温度ムラがほとんどないことがかります。
暖房時、冷房時とも、放射熱を直接体に感じることから室内の暖房や冷房の設定温度を多少緩和することもでき、
また、送風に伴う動力が不要になることから、省エネに役立つとともに室内を静かな環境にすることができます。


照明

④太陽光追従の自動回転フィンで拡散反射光

透析室南側の太陽光に追従して自動回転するフィンは、直達日射を遮りつつ、
拡散光で室内側に光を届けるため、反射を考えた凸型形状の断面としている。

拡散反射光により、透析治療中はほとんど照明を点けないで生活できる環境を作り出し、通常つけっぱなしになってしまっている照明の消費エネルギーを大きく削減できている。



⑤リフレクトフィンで光庭

リフレクトフィンが拡散光をもたらす。反射光はラウンジに降り注ぎ明るい環境を作り出す。


⑥天井照射型LED

従来の照明から天井照射型LEDにすることにより照明の消費エネルギーを削減し、治療中長時間寝たきりで光に敏感な透析患者にやさしい光を届ける。


医療機器

⑦真空管太陽熱集熱器で ろ過水を加温

これまで医療機器の電気ヒーターで温められていた1 日14.4tのろ過水を、真空管太陽
熱集熱器で代替加温する。真空管太陽熱集熱器は3階スタッフゾーンの庇の役割も兼ねている。


製造する透析液は、水道水の段階で20℃まで昇温され(1次昇温)、透析液となった段階で37℃
まで昇温されます(2次昇温)。昇温には医療機器に内蔵された電気ヒータが使われるため、医療
機器の消費電力が大きく、特に水道水の温度が5℃程度まで低下する冬期にピークを迎えます。
そこで、太陽熱を利用した昇温システムが計画されました。1次昇温は水道水の段階で行うことか
ら、透析液の約2倍の水量を昇温する必要があり、そのため加熱負荷も大きくなります。

透析液を体温に近い温度まで温めるために従来の透析センターは電気ヒーターで大量のエネルギーを
消費していたが、この建物では真空管太陽熱集熱器と空冷ヒートポンプチラーにより電力消費をなくしている。


⑧発熱する医療機械の隔離

医療機器メーカーとやり取りを重ね、発熱量の大きな透析機械は階を分けて隔絶することにより放射冷暖房を安定させることができ、余計な消費エネルギーを抑えることができるようにしている。


⑨ろ過水のカスケード利用

メカニカルバルコニーの光庭の水盤からオーバフローしたろ過水が玄関脇に流れて打ち水となる。

透析のろ過水は、滝→水盤→玄関の打ち水→最終的には植栽の散水と、重力に従ってカスケード利用され、無駄無く活用される。


快適な治療環境を提供する

ベッドに横たわった状態で長時間の透析治療を受ける患者に対して、少しでも快適に過ごせるような環境をつくることは、建築設計者にとって腕の見せ所です。
長時間ベッドに横たわって治療を受ける透析患者は、ほんの少しの日射による温度変化やまぶしさにも敏感に反応するため、従来の透析施設のほとんどが分厚いカーテンを閉めっぱなしの状態が多くあります。
必要なことですが患者にとって閉めきりの環境が快適な治療環境かというのは難しい問題です。


CASE1 中辻医院

中辻医院の改修の際、既存の医院においては西日を遮るためにカーテンが閉じっぱなしとなり、待合スペースは息が詰まりそうな場所となっていること、透析センターは、長時間ベッドの上でじっとしていなければならないにもかかわらず、外の景色が見えないために、室内の透析機械がやたら目立つ殺伐とした場所となっていることなども大きな問題であると感じました。


息がつまりそうな改修前の環境 居心地の問題も改善項目ととらえた

そこで中辻医院では、西日を遮りつつ明るさを確保するために、桜模様のスクリーンを窓の外に設置しました。

このパネルは、アルミ板を綾折りにかみあわせることで、バウンドした光がパネル背面を明るく照らし出すことにより、日射を遮りつつ建物の中に光を取り戻す装置として機能します。
また、角度を振ったパネル面に花模様をくりぬくことで、建物内からはまぶしさを感じることなく外の景色が垣間見えるとともに、穴を透過する光がパネル背面にもうひとつの光の花模様を浮かび上がらせ、患者の目を楽しませます。太陽の動きや雲の流れによってパネルの輝き方は刻々と変化します。室内からは、わずかな光の強弱や時間による光のうつろいが強調されて感じられるため、透析患者からも窓を見ていると飽きないと喜んでもらっています。ちょうど透析が終わる夕刻に、このパネルはもっとも光輝くようになります。
透析中は寝ているという患者も多いのですが、透析中の苦しさから開放されて「起きてみたら希望の光があふれていた」という現象をつくりだせたのではないかと思っています。


メタリックピンクとシルバーに塗り分けられたファサードパネルに、直射光はもちろんのこと、綾折りの隙間や花模様の穴から抜けてくる光、パネル相互で反射しあう光などが複雑に絡み合い、刻一刻と表情を変化させます。ある時は満開の桜が咲き乱れるように、ピンクに染まったパネルに花模様が浮かび上がり、またある時は光と影の彫りの深い表情が立体的に迫ってきます。

光による内外へのメッセージ

ファサードパネルを室内側から見たときの光の様態は、綾折りにより生まれた隙間から射し込む鋭い光、パネル表面にバウンドして間接的に背面を照らす柔かい光、花模様の開口から漏れてくるきらめく光が混ざりあい、なんともいえない複雑な表情となります。鏡面度の高いメタリック塗装により、雲の流れによるほんのわずかな陽のかげりも増幅して感じ取れ、驚くほど感度の高い光の装置となっています。
光の変化は時間の移ろいとして感じられ、光の強弱は人の脈動を連想させる生の象徴として感じられます。前述したように、病気と闘っている患者に対して、カーテンを閉じたままの殺風景な場所に光を取り戻し、ただカーテンを開けて普段から見慣れた凡庸な風景を見せるのではなく、希望の光を感じてほしいと願ったのです。

パネルの色や花模様は、医院のシンボルである桜を踏襲しています。そして吉野における桜は、地域の誇りであり、患者にとってももっとも親しみやすいアイコンです。この見慣れたアイコンがとても新鮮に見えると言ってもらえたことで、メッセージはたしかに伝わったのだと確信しました。


CASE2 壬生医院

壬生医院では、南側に高い建物がなく、葛城山や金剛山が見える場所なので、季節ごとに彩を変える風光明媚な眺望を得ることができるため眺めの良い開放的な窓を設けたいと思い、
一方で、東西にあるお墓への視線と道路からの視線は遮りたいという目的と、安定した熱環境をつくるために、太陽の直達日射を遮りたいという目的から、視線や日射を制御する縦ルーバーのスクリーンを太陽の向きに応じて自動回転させることを考えました。


駐車場のラインに合わせて西側のスクリーンを窓から徐々に遠ざけることで、西日対策がより完全なものとなり、かつ窓の外に広がりと光溜まりができるので、ブラインドで閉じられた透析室とは一線を画す空間になったのではないかと思っています。

また透析室内は、日射制御をすることにより、従来の建物と比べて熱負荷が1/3程度に抑えられていることから、放射冷暖房による気流が発生しない空調方式を採用し、気流や、暑さ寒さを感じることがなく常に一定の温度環境をつくりだし、それにより寝間着でも快適に過ごせる環境となっています。


また、透析ラウンジの外には、ROの余剰水が、滝のように流れ落ちる仕掛けをつくりました。空から水が落ちてきたら、透析が始まる合図となります。
この仕掛けは視覚的に楽しめるだけではなく、予冷、予温効果もあり快適な環境づくりに一役かっています。


時を刻むフィン
南側のフィンは、日射を遮りつつ、拡散反射光を室内にもたらすように、太陽光に追従して1時間毎に自動回転する。
時間とともに外の景色は移り変わり、透析患者に時の経過を知らせる。12時の午前から午後に向きを変えるための大きな回転は透析治療終了の合図となります。

このアクションは、地域の住民からも正午を知らせるからくり時報として知られており、さらに注意して建物を見れば、ファサードの表情の違いにより、おおよその時刻を伺い知ることもできます。
午後の透析終了時には、晴れやかに姿をあらわす葛城山と金剛山が透析患者の苦しい治療を労ってくれる風景を作り出しました。


透析施設の現状

世界の中で透析導入後の予後死亡率が最も低いと報告されるなど、わが国の透析医療はとても優れている一方で、2017年には33 万人を超えた透析患者の医療費が、国庫の負担となっていることも事実である。透析医療が高止まりしている要因は、高額な医療設備の導入維持管理や、看護単位が少なくならざる得ないなどさまざまではあるが、施設のエネルギー消費が異様に高いことも一因となっている。


透析施設の設計における2つのポイント

そこでわれわれは、ますます増え続けるであろう透析医療が持続できるような施設のあり方を考えた。

重要となってくるポイントは「高額な施設のエネルギー消費を抑える」ことと、ベッドに横たわった状態で長時間の透析治療を受ける患者に対し、「快適な治療環境を提供する」ことである。


高額な施設のエネルギー消費を抑える

空調と照明が鍵 アンタッチャブルな医療機器にもメス

建物用途別で比較して病院はもっとも総エネルギー消費量が大きい。
透析施設のBELS認証を受けた基準値は、それよりもさらに大きくその基準値と同等のエネルギー消費量である系列病院の透析施設は、年間1000 万円を超えるエネルギー費用が大きな負担となっている。

資料)建築物エネルギー消費量調査報告(第36 報) (一社)日本エネルギー総合管理技術協会


既存施設の項目別の内訳から、エネルギー消費を抑える鍵は、空調と照明であることが分かっており、重点的に対策を施した。
またなかなか踏み込めなかった医療機器についても話し合いを重ね、エネルギー消費削減に寄与する取り組みを行った。

以下は奈良県にある壬生医院で行ったゼロエネルギービルディング(ZEB)の取り組みである。


これによりこの建物は、透析センターを併設した診療所という極めてエネルギー消費の大きい建物でありながら、プリーツスキンや太陽光に追従する自動回転スクリーンなどの特徴ある外皮を纏うことによって、安定した熱環境をつくりだし、一次エネルギー消費量を52%削減し、BELSによるZEBready の認証を受けている。


その結果、2018 年度実績で1,168MJ/㎡・年で事務所ビルより少ないという成果が得られた。

2018 年1 月に開業してから、2019 年3月時点で外来患者は平均50 人/ 日、透析患者は25 人と、当初見込みを上回るペースで来院者数が増えている。
一方消費エネルギーは、安定的な統計が得られだした2018 年度の実績値で、標準年間エネルギー消費量と比べて空調が85%減、照明が95%減となっており、期待以上の効果が表れた。


空調

①外壁や太陽光追従の自動回転フィンで熱負荷抑制

太陽光に追従して自動回転する高さ100mm の金属フィンにより外壁に影をつくり、ヒートシンクの役割も担う。

通常の庇だけでは遮るのが難しい太陽高度が低くなった際にも南側一面に広がる縦のルーバーによってカバーすることが可能となった。
太陽の動きに合わせて自動回転するフィンにより太陽からの熱負荷を抑制し、拡散光により明るさは室内へと届けるので照明などから
発する余計な熱エネルギーも削減できるため設定温度を緩和でき、安定した空調利用ができる環境をつくりだしている。

また、フィンに持たせたヒートシンクの役割だがヒートシンクの効果は空気に触れる面積が広ければ広いほど放熱効率が向上するため、
複数枚の羽根がつく今回の構造では非常に効果を発揮している。



②ろ過水の滝と水盤で予冷

ろ過の余剰水の水温は安定的に20℃前後。ここで予冷/ 予温して外気を取り入れる。
また、フィンからろ過の余剰水が滝のように流れてきたら透析準備開始の合図となる。


③放射冷暖房で省エネ運転

徹底的な熱負荷の抑制により、気流を感じることなく寝間着でも快適に過ごせる放射冷暖房としている。安定運転で室温以上に涼しく/ 温かく感じるため、省エネルギーに寄与する。

対流式の従来空調は、空調の吹き出し口の真下の温度が低かったり高かったりする上、足元は冷暖房ともに冷たくなっています。
一方、放射空調では室内全体がムラなく冷えたり暖まっていることで、温度ムラがほとんどないことがかります。暖房時、冷房時とも、放射熱を直接体に感じることから室内の暖房や冷房の設定温度を多少緩和することもでき、また、送風に伴う動力が不要になることから、省エネに役立つとともに室内を静かな環境にすることができます。


照明

④太陽光追従の自動回転フィンで拡散反射光

透析室南側の太陽光に追従して自動回転するフィンは、直達日射を遮りつつ、
拡散光で室内側に光を届けるため、反射を考えた凸型形状の断面としている。

拡散反射光により、透析治療中はほとんど照明を点けないで生活できる環境を作り出し、
通常つけっぱなしになってしまっている照明の消費エネルギーを大きく削減できている。






⑤リフレクトフィンで光庭

リフレクトフィンが拡散光をもたらす。反射光はラウンジに降り注ぎ明るい環境を作り出す。


⑥天井照射型LED

従来の照明から天井照射型LEDにすることにより照明の消費エネルギーを削減し、治療中長時間寝たきりで光に敏感な透析患者にやさしい光を届ける。


医療機器

⑦真空管太陽熱集熱器で ろ過水を加温

これまで医療機器の電気ヒーターで温められていた1 日14.4tのろ過水を、真空管太陽
熱集熱器で代替加温する。真空管太陽熱集熱器は3階スタッフゾーンの庇の役割も兼ねている。

製造する透析液は、水道水の段階で20℃まで昇温され(1次昇温)、透析液となった段階で37℃
まで昇温されます(2次昇温)。昇温には医療機器に内蔵された電気ヒータが使われるため、医療
機器の消費電力が大きく、特に水道水の温度が5℃程度まで低下する冬期にピークを迎えます。
そこで、太陽熱を利用した昇温システムが計画されました。1次昇温は水道水の段階で行うことか
ら、透析液の約2倍の水量を昇温する必要があり、そのため加熱負荷も大きくなります。

透析液を体温に近い温度まで温めるために従来の透析センターは電気ヒーターで大量のエネルギーを
消費していたが、この建物では真空管太陽熱集熱器と空冷ヒートポンプチラーにより電力消費をなくしている。



⑧発熱する医療機械の隔離

医療機器メーカーとやり取りを重ね、発熱量の大きな透析機械は階を分けて隔絶することにより放射冷暖房を安定させることができ、余計な消費エネルギーを抑えることができるようにしている。


⑨ろ過水のカスケード利用

メカニカルバルコニーの光庭の水盤からオーバフローしたろ過水が玄関脇に流れて打ち水となる。

透析のろ過水は、滝→水盤→玄関の打ち水→最終的には植栽の散水と、重力に従ってカスケード利用され、無駄無く活用される。



快適な治療環境を提供する

ベッドに横たわった状態で長時間の透析治療を受ける患者に対して、少しでも快適に過ごせるような環境をつくることは、建築設計者にとって腕の見せ所です。
長時間ベッドに横たわって治療を受ける透析患者は、ほんの少しの日射による温度変化やまぶしさにも敏感に反応するため、従来の透析施設のほとんどが分厚いカーテンを閉めっぱなしの状態が多くあります。
必要なことですが患者にとって閉めきりの環境が快適な治療環境かというのは難しい問題です。

CASE1 中辻医院

中辻医院の改修の際、既存の医院においては西日を遮るためにカーテンが閉じっぱなしとなり、待合スペースは息が詰まりそうな場所となっていること、透析センターは、長時間ベッドの上でじっとしていなければならないにもかかわらず、外の景色が見えないために、室内の透析機械がやたら目立つ殺伐とした場所となっていることなども大きな問題であると感じました。


息がつまりそうな改修前の環境 居心地の問題も改善項目ととらえた

そこで中辻医院では、西日を遮りつつ明るさを確保するために、桜模様のスクリーンを窓の外に設置しました。

このパネルは、アルミ板を綾折りにかみあわせることで、バウンドした光がパネル背面を明るく照らし出すことにより、日射を遮りつつ建物の中に光を取り戻す装置として機能します。
また、角度を振ったパネル面に花模様をくりぬくことで、建物内からはまぶしさを感じることなく外の景色が垣間見えるとともに、穴を透過する光がパネル背面にもうひとつの光の花模様を浮かび上がらせ、患者の目を楽しませます。太陽の動きや雲の流れによってパネルの輝き方は刻々と変化します。室内からは、わずかな光の強弱や時間による光のうつろいが強調されて感じられるため、透析患者からも窓を見ていると飽きないと喜んでもらっています。ちょうど透析が終わる夕刻に、このパネルはもっとも光輝くようになります。
透析中は寝ているという患者も多いのですが、透析中の苦しさから開放されて「起きてみたら希望の光があふれていた」という現象をつくりだせたのではないかと思っています。


メタリックピンクとシルバーに塗り分けられたファサードパネルに、直射光はもちろんのこと、綾折りの隙間や花模様の穴から抜けてくる光、パネル相互で反射しあう光などが複雑に絡み合い、刻一刻と表情を変化させます。ある時は満開の桜が咲き乱れるように、ピンクに染まったパネルに花模様が浮かび上がり、またある時は光と影の彫りの深い表情が立体的に迫ってきます。

光による内外へのメッセージ

ファサードパネルを室内側から見たときの光の様態は、綾折りにより生まれた隙間から射し込む鋭い光、パネル表面にバウンドして間接的に背面を照らす柔かい光、花模様の開口から漏れてくるきらめく光が混ざりあい、なんともいえない複雑な表情となります。鏡面度の高いメタリック塗装により、雲の流れによるほんのわずかな陽のかげりも増幅して感じ取れ、驚くほど感度の高い光の装置となっています。
光の変化は時間の移ろいとして感じられ、光の強弱は人の脈動を連想させる生の象徴として感じられます。前述したように、病気と闘っている患者に対して、カーテンを閉じたままの殺風景な場所に光を取り戻し、ただカーテンを開けて普段から見慣れた凡庸な風景を見せるのではなく、希望の光を感じてほしいと願ったのです。

パネルの色や花模様は、医院のシンボルである桜を踏襲しています。そして吉野における桜は、地域の誇りであり、患者にとってももっとも親しみやすいアイコンです。この見慣れたアイコンがとても新鮮に見えると言ってもらえたことで、メッセージはたしかに伝わったのだと確信しました。



CASE2 壬生医院

壬生医院では、南側に高い建物がなく、葛城山や金剛山が見える場所なので、季節ごとに彩を変える風光明媚な眺望を得ることができるため眺めの良い開放的な窓を設けたいと思い、
一方で、東西にあるお墓への視線と道路からの視線は遮りたいという目的と、安定した熱環境をつくるために、太陽の直達日射を遮りたいという目的から、視線や日射を制御する縦ルーバーのスクリーンを太陽の向きに応じて自動回転させることを考えました。


駐車場のラインに合わせて西側のスクリーンを窓から徐々に遠ざけることで、西日対策がより完全なものとなり、かつ窓の外に広がりと光溜まりができるので、ブラインドで閉じられた透析室とは一線を画す空間になったのではないかと思っています。

また透析室内は、日射制御をすることにより、従来の建物と比べて熱負荷が1/3程度に抑えられていることから、放射冷暖房による気流が発生しない空調方式を採用し、気流や、暑さ寒さを感じることがなく常に一定の温度環境をつくりだし、それにより寝間着でも快適に過ごせる環境となっています。


また、透析ラウンジの外には、ROの余剰水が、滝のように流れ落ちる仕掛けをつくりました。空から水が落ちてきたら、透析が始まる合図となります。
この仕掛けは視覚的に楽しめるだけではなく、予冷、予温効果もあり快適な環境づくりに一役かっています。

南側のフィンは、日射を遮りつつ、拡散反射光を室内にもたらすように、太陽光に追従して1時間毎に自動回転する。
時間とともに外の景色は移り変わり、透析患者に時の経過を知らせる。12時の午前から午後に向きを変えるための大きな回転は透析治療終了の合図となります。

このアクションは、地域の住民からも正午を知らせるからくり時報として知られており、さらに注意して建物を見れば、ファサードの表情の違いにより、おおよその時刻を伺い知ることもできます。
午後の透析終了時には、晴れやかに姿をあらわす葛城山と金剛山が透析患者の苦しい治療を労ってくれる風景を作り出しました。